「年金」にかかる「税金」はこう計算する!
今年も確定申告の時期が近づきました。この季節になると、「公的年金に税金は掛かるのですか?」「厚生年金をもらっていますが、確定申告は必要ですか?」など、年金にかかる税金に関するご質問をたくさんいただきます。
そこで、今回は「公的年金の課税の仕組み」について考えてみます。
▼老齢年金には「所得税」がかかる
老齢厚生年金(ろうれいこうせいねんきん)など一定の年齢に達したことによりもらえる公的年金には、所得税という税金がかかります。所得税とは個人が1年間に得た利益に対してかかる税金であり、老齢年金の場合には源泉徴収(げんせんちょうしゅう)という方法で年金の支払い時に天引きをされることになります。具体的には、年齢が65歳未満の場合には年金額が70万円以上のケースで、65歳以上の場合には年金額が120万円以上のケースで源泉徴収の対象とされます。
年金額が70万円未満(65歳未満)、120万円未満(65歳以上)の場合には、天引きされる税金は0円となります。年金受給者の所得税の計算時に適用となる「基礎控除」と「公的年金等控除」を考慮すると、課税対象になる部分がないからです。たとえば、65歳で満額の老齢基礎年金(ろうれいきそねんきん)だけをもらう方の場合、年金額は1年間で約78万円なので、120万円未満のため結果的に天引きされる税金はありません。
▼年金の受取りごとに“5%”が差し引かれる
年金額が70万円以上(65歳未満)、120万円以上(65歳以上)の場合、年金から源泉徴収される所得税の金額は、秋に年金の支払者である日本年金機構などから送られてくる『公的年金等の受給者の扶養親族等申告書(ふようしんぞくとうしんこくしょ)』を提出することにより、次のようなプロセスで計算されます。
(1)まず、年金の支給額から「年金から天引きされている社会保険料(介護保険料、国民健康保険料、後期高齢者医療保険料)」を差し引く。
(2)さらに、所得税の「基礎控除」「公的年金等控除」「申告書に記入した各種控除」を差し引く。
(3)(2)の計算結果に「税率“5%”」を掛けた金額を源泉徴収税額とする。
※
申告書を提出していない場合には、適用可能な控除の種類および税率が異な ります。
計算により決定された税額は、年金支払いのたびに介護保険料などの社会保険料と一緒に差し引かれ、残りの金額が口座に入金される仕組みになっています。このように、受給している公的年金が「老齢年金」の場合、税金はあらかじめ毎回の年金支払い時に差し引かれるので、一般的には確定申告の必要がありません。また、受給している公的年金が「障害年金」「遺族年金」の場合、これらの年金は所得税の課税対象ではないため、確定申告をする対象になりません。
▼働きながら年金をもらうと確定申告が必要
ただし、年金をもらいながら働いている場合など、年金以外に他の収入がある場合には、年金受給者でも確定申告の義務が生じます。
会社の給与から天引きする所得税額を計算する際には、通常、所得税の「基礎控除」が適用されています。そのため、年金受給者が働いている場合には、“年金から天引きする税金”と“給与から天引きする税金”の両方で所得税の「基礎控除」を受けていることになり、そのままでは正しい税額を納めたことになりません。したがって、確定申告により所得税の精算をする必要があるわけです。
「会社で年末調整(ねんまつちょうせい)が行われたので、確定申告は不要では?」というご質問をいただくことがあります。しかし、会社で行われる年末調整は、あくまで会社が払った1年間の給与に対する税金の精算を行うものであり、個々人の給与以外の収入まで考慮した税精算を行うわけではありません。したがって、年金収入と給与収入がある場合には、個人で確定申告をすることが義務となっています。
▼その他の申告が必要なケースとは
他にも確定申告が必要なケースとしては、たとえば、
(1)年金のほかに“給与以外の収入”がある
例)「老齢厚生年金」のほかに「家賃収入」がある。
(2)公的年金と“企業年金”のふたつをもらっている
例)「老齢厚生年金」と「会社の厚生年金基金」をもらっている。
(3) 支払者が異なる“複数の公的年金”をもらっている
例)「老齢厚生年金」と「公務員の退職共済年金」をもらっている。
などがあります。いずれのケースも税金の精算をする必要があるため、確定申告が義務付けられています。
また、源泉徴収時には適用されない所得税の控除を受けたい場合にも、確定申告が必要です。たとえば、
(1)生命保険会社に生命保険の保険料を支払った。
(2)家族の国民年金の保険料を代わりに支払った。
(3)1年間に多額の医療費を支払った。
などのケースでは、それぞれ「(1)生命保険料控除」「(2)社会保険料控除(年金から天引きされていない保険料分の控除)」「(3)医療費控除」の対象になることがあり、適用された場合には納めた税金が戻ってくる可能性があります。
これらの控除は、源泉徴収という仕組みで税額を決定するときには適用を受けることがないため、控除を受けたければ確定申告が必要になります。ただし、控除を受けるかどうかは個人の自由です。
税金については細かなルールがたくさんあるため、原則的な考え方だけでは十分に対応できないことも少なくありません。そこで、「自分の場合はどうなるのだろう?」と思われた場合には、税務署に相談することをお勧めします。
現在、最寄りの税務署に電話をすると音声案内が流れ、「確定申告電話相談センター」などにつながる仕組みになっています(平成28年9月9日現在)。まずは、電話相談センターを利用するのもひとつの方法です。
株式会社 住まいと保険と資産管理
CFP・中小企業診断士・特定社会保険労務士
大須賀 信敬
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※以上は独立系FP会社 住まいと保険と資産管理に所属するファイナンシャルプランナー
が執筆して2011年にMSNマネーに掲載されたコラムを2016年に最新情報に編集したものです。
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